今月読んだ本
今月(2024-11)読んだ本は1冊。
ハイパーインフレの事例を調べた研究では、高インフレを起こす仕組みとして、物価がX%の率で上がると皆が予想し、②その予想を踏まえて企業や店舗が値札を書き換える、③その結果実際にその率で物価が上がる、というメカニズムが考えられるようになりました。この仕組みは、人々が予想したことが実際に実現されるので「自己実現的予想」とよばれています。これによって起こるのが「自己実現的インフレ」です。
人々の予想するXが高すぎる状況に対しては、Xがどれほど高くても、その予想を潰すことができます。これに対して、Xが低すぎる場合には、臨界点を超えると対応不能であり、その予想を潰せません。この意味で、中央銀行が物価をコントロールする能力は、インフレとデフレで非対称なのです。
二○二一年現在、日本や米国・欧州などの先進各国は一○○年ぶりに金利ゼロの飽和点にいます。
これは人々のインフレ予想(つまりXの値)を引き下げ、ゼロの近くで安定させるという政策を各国で追求してきた成果とも言えます。ここに至るまでの先人たちのインフレ克服に向けた努力に敬意を表しつつ、フリードマンの思い描いた、至福の世界を堪能すべきでしょう。
メニューを更新したくないという理由で価格据え置きが起こるーこれが「メニューコスト仮説」です
迅速さを優先してとりあえず何かを思いつかなければならないとき、私たちはたどりやすい(思い出しやすい)記憶や知識、つまり「利用しやすい」記憶や知識に頼ろうとします。これが利用可能性ヒューリスティックスです。これを最初に提唱したのは、行動経済学の創始者として有名なダニエル・カーネマンでした。
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私たちのプロジェクトでは、この利用可能性ヒューリスティックスが人々のインフレ予想の形成にも用いられていると考えたのです。
メニューコスト仮説は、ちっぽけなコストが失業や景気変動を生むという意外性が惹きつけるためか、物価理論の研究者たちのあいだでは非常に人気があります。価格硬直性を説明する仮説として今後も影響力を持ち続けることでしょう。ですが面白いことに、この仮説は実際に企業で価格をつけている人たちからはほとんど支持されていません。
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では、企業は硬直性の理由を何と答えたかと言うと、「需要や原価の変化を見極めるのに時間がかる」「競合他社の動きを見極めるのに時間がかかる」といった、不確実性を理由に挙げる企業が多く、この二つを合わせると約半数になります。
政府が減税を行う、しかもその減税は恒久的なもので将来の増税で打ち消すようなことはしないと政府が約束する――そうすれば、貨幣のバックにある税収が将来減ると人々が予想するので、貨幣の魅力が落ちることになります。これでデフレ予想を潰せます。