池袋ウエストゲートパークを愛しながら
最新刊の池袋ウエストゲートパークXIIIが最高だったので引用と過去に撮った池袋の写真
そういえば、このころの芸能スポーツ界の覚醒剤騒ぎも、逮捕されてみればみな四〜五十代の中年ばかりだった。真っ黒日焼けして、虚勢を張った趣味の悪い服やクルマでふんぞりかえる夜のにおいがする男たち。なにせ若い奴らにとって、覚醒剤なんて時代遅れのオールドファッションなドラッグである。もうお呼びでないのだ。
おれたちが生きているのは、即決裁判が許された情状酌量のない時代だ。みんな考えるのが面倒で、善悪をさっさと悩まずに決めてしまいたいのである。とくにネットで見かけた他人のトラブルについてはね。不倫は悪、経歴詐称は悪、ギャンブルは悪。
中略
あんたも気をつけたほうがいいよ。今はどんな理由で、誰に火をつけられるかわからない。おれたちの人生は乾ききった薪みたいなもので、誰だって火のつきやすい傷や罪くらいはもっているものだ。消防の代わりにネットにあふれているものは、ちいさな火に油をそそぐ「正義の放火魔」たち。
三月は春の始まりだが、気温はまだずいぶんと低い。ほとんど真冬と同じくらい。日差しが雲に隠れれば、昼間でも息は真っ白。桜にはだいぶ間があるその日、おれはいつものように店番をしていた。
魔法の鏡ではないが、みなすこしだけまともに映った自分の姿が好きなのかもしれない。
おれは布団に倒れ込んで、ふて寝した;明けがたに見た夢は曇り空の海岸。さざなみが果てしなく水平線まで広がっている。その波頭のひとつひとつがJUNK映像できらきらと光っているのだ。押し寄せてくる映像の波。でれかひとつをよく見ようと思わなければ、それは案外うつくしい景色だった。
十一月のからりと乾いた空のした、見しらぬ街を歩くのはひとりでに笑みがこぼれるほど快適だった。
なあ、みんなも探偵ごっこしてみないか。
街歩きにもくわしくなるよ。
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石田 衣良
文藝春秋
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